夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

グレート・ギャッツビーのニックについて考える

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ニックは自分に近いキャラクターなので分析しづらい。。。自分を切り刻んでるようで。みなさんとは違う意見になるかもしれません。違うご意見をお持ちの方、コメントしていただければうれしいです。

 

ニックの性格の根本をなしているものは二つある。

 

一つ目は、人を色眼鏡でみない。

二つ目は、正直であるということ。

 

グレート・ギャッツビーの時代である1920年代は、キリスト教のピューリタンの影響が強くて不倫には強い反発があったようだ。

第一章で、トムの愛人から夕食時に電話がかかってきた時、ニックは警察に電話したいという奇妙なコメントを出している。これは、愛人を持つということがそれほど当時の常識に反していたことを暗示していると思う。今の感覚で言えば、犯罪行為をこっそりしているって感じだろうね。

 

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それなのに、トムが愛人との隠れ家にしているニューヨークの家に半強制的に連れて行かれた時、ニックは、初対面のトムの愛人のマートルとすぐ仲良くなって、マートルからトムと会った馴れ初めを聞く羽目になっている。ニックの「人を色眼鏡で見ない」という技は筋金入り。初めての出会いで、人をそこまで打ち解けさせるのは立派な才能だね。

ニックは基本的にいい人なのだ。

 

 

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そして、ジョーダンがガールフレンド候補として気になり出した時に、自分には故郷に噂になっている女の子がいるから、ジョーダンと付き合う前にそちらに手紙を出して、ゆるく続いている関係を終わらさないといけないと考えてる。

 

 

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東部に疲れて、故郷に帰ることに決めた時も、ジョーダンにはっきり関係を終わらせようと一対一で話しに行っている。

 

対する女の子たちは傷つけられてカンカンだろうけど、ニックなりに誠意を示そうとしているのが感じられる。トムみたいなことはしないぞという決意もあるのかもね。

 

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でも、ニックの正直さには疑問もある。

 

故郷に戻る直前に、トムとニューヨークで出会ってしまった時、なんでマートルを殺したのはギャッツビーではなくデイジーだってはっきり言わなかったんだろう?まあ、デイジーが殺したっていうのは証拠が無いし、真実をバラすとデイジーがトムに頭が上がらなくなって、トムから嫌がらせをされ続けることになるかもしれないものね。こういう結果になってしまったのだから、真実は闇に葬ろうという気持ちなんだろう。でも、傍目からみると、そこはマートルを殺したのはギャッツビーじゃないとトムに言って欲しかった気もする。

 

 

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次に、事故の夜、デイジーを見張って明け方に帰ってきたギャッツビーにニックは警察の追跡を避けるため、逃げるように言った事実。これも正直な行為とは言い難い。はっきり言って犯罪行為だよね?

でも、ギャッツビーがやった事故じゃないし、愛するデイジーのために自分が罪を背負う気になっていて、かわいそう。ここまで来るとギャッツビーに入れ込んでくるから、ニックみたいなことを言ってしまうかも。

 

 

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三つ目。デイジーが初めてギャッツビーのパーティに参加した時、デイジーとギャッツビーが密会している間、デイジーの夫のトムが見つけないように、ニックはなんと庭で見張り番をしてるよね?これも正直な行為とは言い難いよね。正義の学級委員長だったら、こんな不正は見逃さないはず。ニックの思う「正直」って何よ?とツッコミたくなる。

 

 

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そもそも、デイジーをギャッツビー に会わせるお茶会を自分宅で開いたところで、もうすでに正直者の看板に傷がついているような気もする。

 

一歩譲って、仮にニックがお茶会は一時間ほどで無事に終わると踏んでいたならば、その日の夜、遅くまでギャッツビーの家で時間を過ごしていて、自分が家に帰る時、なんでデイジーを引きずってでもギャッツビーの家から連れ出さなかったんだろう?そこに二人を置いとくと次はどうなるか目に見えてるよね。そして案の定、デイジーはギャッツビー の家に入り浸りになるし。

 

 

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正直者と言いながら、ニックは人がいいから、弱い・・・ニックが直接の原因とは言わないまでも、この弱さに全ての悲劇の遠因があるという見方もできるかもしれない。

 

だから、最初ニックの独白で述べているように、ギャッツビーの悲劇をトムやデイジーやジョーダンや、ギャッツビーの最期に無関心だったパーティに来てた連中のせいにするのは、片手落ちと言えるかも。ニックにもその原因があったのだ。

 

 ニックは、マートル宅のパーティで、参加者の顔に、髭剃りの石鹸の泡がついているのがとても気になって、その人が酒で眠り込んだ時、そっと泡を拭き取ってやるほど細かいことに気がつく人だ。

 

ギャッツビーが死んだことに対して、自分の反省点は書いていないんだけど、2年後に事件を振り返って、この点も考えずにはいられないんじゃないかな。

 

結論として、正直であるという点が人を色眼鏡で見ないという優しい心と対立した時、優しい心が勝つ人なんだと思う。

 

だから、ギャッツビーを酒を不法売買していた犯罪人としてではなく、デイジーを一途に愛し、貧しい家に生まれたという逆境を跳ね返して見事な教養を身につけ、自分の夢に向かって真っ直ぐに邁進するギャッツビーを正しく理解することができたんだと思う。

 

でも、一番美しいのはギャッツビーの夢を受け継いで努力し続けると最後に言っているところ。生まれで差別されない社会にしたい。努力が報われる社会にしたい。ニックに引き継がれたギャッツビーの夢は今も輝いている。