夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 X-2

「すわってもいいですか?」
おうじさまはそっとたずねた。
「すわるようにめいずる」
おうさまはそうこたえて、いくえにもかさなったけがわを、おごそかにひきよせた。


でも、そこでおうじさまはかんがえた。このほしは、とてもちいさい。このおうさまは、いったいなにをしたがえているんだろう?
「おうさま、しつもんすることをおゆるしください」
「しつもんをするようにめいずる」
おうさまはあわててこたえた。


「おうさまは、なにをしたがえていらっしゃるのですか」
「すべてのものじゃ」
おうさまはおごそかにみじかくこたえた。
「なんでもですか」
おうさまは、じぶんのほしをゆびさし、ほかのほしをゆびさし、すべてのほしをゆびさした。
「ぜんぶってことですか」
おうじさまが、きいた。
「すべてじゃ」
おうさまが、こたえた。
おうさまのちからは、つよいだけでなく、どこまでもひろがっているのだった。
「ほしも、おうさまにしたがうのですか」
「もちろんじゃとも。ほしもしたがえておる。そうせぬと、わしがゆるさぬからな」


そんなにすごいちからがあるなんてと、おうじさまはめをまるくした。ゆうひだって、いちにちに、44かいどころか、72かいだって、100かいだって、200かいだって、イスをうごかさなくたって、みられるにちがいない。


おうじさまは、ふるさとのほしをおもいだすと、すこしさびしくなって、ゆうきをだしておうさまにたのんでみた。
「ゆうひがみたいんです・・・おねがいです。ゆうぐれになるように、めいれいしてください」
「もし、わしがしょうぐんに、ちょうちょのように、はなからはなへととびうつれといったり、かなしいおしばいをかけといったり、かもめにへんしんせよといったりして、しょうぐんが、したがうことができなかったとしたら、しょうぐんとわしと、どちらがわるいとおもう?」
おうさまはきいてきた。
「おうさまのほうです」
おうじさまははっきりとこたえた。
「そのとおり。めいれいするものには、できることのみをめいじる、ぎむがあるのじゃ。ちからをつかうには、まずりくつをわきまえることじゃ。もし、うみにみをなげろなどとめいじたりすれば、たちまち、かくめいがおこるじゃろ。わしのめいれいがりくつにかなってはじめて、みなを、わしにしたがわせることができるのじゃ」


「それじゃぁ、ぼくのゆうひは?」
ちいさなおうじさまはまたきいてみた。おうじさまはじぶんのしつもんはぜったいにわすれない。
「ゆうひは、みられようとも。わしがめいずる。しかし、わがせいふのかがくほうこくによると、じょうけんがととのわなければならんのだ」
「いつ、ととのうんですか?」
「ふむ、ふむ!」おうさまはそうへんじをして、ことばをつづけるかわりに、ぶあついよていひょうをめくりはじめた。
「ふむ、ふむ!そのじかんはじゃな・・・およそ、こんやの7じ40ぷんじゃ。よくみられよ。わしがめいれいする」


おうじさまは、あくびをした。ゆうひがみられなくてがっかりだった。すこしたいくつになってきた。


「ここでは、もうこれいじょうすることはありません。またでかけることにします」
「いってはならんぞ」
おうさまはいった。けらいができてすっかりとくいになっていたからだ。
「いってはならん。おまえをだいじんにしてやる!」
「なんのだいじんですか」
「さいばんを、つかさどるだいじんだ!」
「でもここには、ひとがほかにだれもいません!」
「まだわからんぞ」
おうさまはいった。
「わしは、こくないを、ぜんぶみてまわったことがない。もう、としでな。ばしゃは、おおきすぎておけないのじゃ。あるくのはたいへんじゃし」
「あぁ、それなら、ぼくは、もうみました!」
おうじさまはもういちど、かがみこんで、ほしのうらがわをみてからいった。うらがわにもだれもいなかった・・・


「それでは、じぶんをさばけばよかろう」おうさまはこたえた。
「それは、もっともむずかしいことであるぞ。たにんをさばくことより、じぶんをさばくことのほうが、よっぽどむずかしい。もし、じぶんをただしくさばければ、そのものこそちえしゃじゃ」
「そうでしょうけど。でもじぶんをさばくことなんて、どこでだって、できるじゃありませんか。このほしにすむひつようはありません」
「ふむ、ふむ!わけあって、わしは、このほしには、としとったねずみがいると、しんじておる。よるに、おとがきこえるのじゃ。このねずみを、さばくとよいぞ。ときどき、しけいにしてやるがよい。ねずみのいのちは、おまえのさばきにかかってくるわけじゃな。でも、そのたびにゆるしてやればよいぞ。だいじにあつかってやらねばならん。さばけるのは、ねずみのみじゃからな」


おうじさまはいった。
「ぼくは、だれもしけいにしたくなんかありません。とにかく、いってしまいますから」
「ゆるさんぞ」
おうさまがいった。
それでも、おうじさまは、すっかり、でかけるしたくができていたので、これいじょう、おうさまをかなしませたくなかった。
「もしてっとりばやく、したがわれるのをおのぞみでしたら、りくつにかなっためいれいを、なさるべきです。『いっぷんいないにたちされ』とか。じょうけんは、ととのっているようにおもいます」


おうさまは、へんじをしなかったので、おうじさまは、すこしためらった。でも、ためいきをつきながら、でかけることにした。
「おまえを、わしのくにからの、たいしにめいじる」
おうさまは、いそいでよびかけた。
やっぱり、めいれいしなければ、きがすまなかったのだ。
「やれやれ、おとなはまったくおかしなもんだね」
たびをつづけながら、ちいさなおうじさまはつぶやいた。