ベンジャミン・バトン
さらに、ベンジャミンは、楽しみを追い求めることに躊躇しなくなってきた。ボルチモアで初めて自動車を所有し、走らせたのも、快楽への激しい欲求の表れであった。街で会うと、同世代の人たちは、彼が健康的で活力に満ちていることをうらやましそうに見つめ…
少なくともある点では、ヒルデガルド・モンクリーフの友人たちは間違っていた。金物卸売業は、驚くほど繁盛したのだ。1880年にベンジャミン・バトンが結婚してから1895年に父親が引退するまでの15年間で、家財は倍増し、それはこの会社の若いメンバーの活躍…
しかし、ボルチモアのどんな美男子とでも結婚できたはずの美しい娘が、見たところ50歳の男の腕の中に身を投じるのは「犯罪」だと、誰もがモンクリーフ将軍と同意見だった。ロジャー・バトン氏は、ボルチモア・ブレイズ紙に息子の出生証明書を大きな活字で掲…
ニューヨークの新聞の日曜版の付録には、ベンジャミン・バトンの顔が魚や蛇に、そして最後には真鍮の体にくっつけられた目をひく漫画を載せて、この事件が大きく取り上げらた。彼は、センセーショナルに「メリーランドの謎の男」と呼ばれるようになった。し…
六 6ヵ月後、ヒルデガード・モンクリーフ嬢とベンジャミン・バトン氏の婚約が知られると(「知られる」と言ったのは、モンクリーフ将軍が正式に発表するくらいなら剣に倒れると宣言したからだ)、ボルチモア社交界の興奮は最高潮に達した。ほとんど忘れられ…
ベンジャミンにとって、50代は素晴らしい年齢に思えた。50代になることを強く願った。 ヒルデガルドは「30代の男性と結婚して面倒を見るくらいなら、50代の男性と結婚して面倒を見たいといつも言っているのよ」と続けた。 ベンジャミンにとって、その後の晩…
ベンジャミンは、思わずプロポーズしそうになったが、努めてその衝動を押しとどめた。「あなたはちょうどロマンチックな年齢よね」彼女は続けた。「50代よ。25歳じゃ出世のことばかり考えてるし、30代は働きすぎて疲れているし、40代は葉巻一本、吸い終える…
ベンジャミンはためらった。自分の父親を兄と見なしているんなら、教えてあげた方がいいんだろうか。でも、イエール大学での経験を思い出し、そうはしないことにした。女性に反論するのは失礼にあたるじゃないか。この素晴らしい機会に、自分のグロテスクな…
しかし、自分の番がやってきて、パリの最新のワルツに合わせて、彼女と一緒にフロアに出ると、嫉妬や不安は雪のように消えていった。 ヒルデガルドは、青いエナメルのような瞳で見上げながら、「あなたとお兄さんは、私たちと同じようにここに来たんでしょう…
二人はモンクリーフ嬢を中心とした一団に近づいていった。古い伝統を知る彼女は、ベンジャミンの前で丁寧にお辞儀をしてみせた。そう、自分は彼女と踊ることができるんだ。ベンジャミンは彼女に礼を言うと歩き出した。その足元はふらふらしていた。 自分の番…
その少女は華奢で弱々しく、髪は、月の下では灰色、ポーチの柔らかいガス灯の下では蜂蜜色をしていた。肩には、淡い黄色地に黒の蝶結びが施されたスペイン風のマントを羽織っていた。胸飾りの付いたドレスの裾からのぞく足は輝いていた。 ロジャー・バトンは…
車を立派な馬車の後ろに停めると、前の馬車の戸口ではちょうど人が降りようとしていているところだった。女性が一人、老紳士が一人、そしてまた罪深いほどに美しい若い女性が降りてきた。ベンジャミンは息を呑んだ。ほとんど化学的な変化によって、体の構成…
ロジャー・バトンは、「金物屋には大きな未来がある」と語っていた。彼は精神世界がわかる人間ではなく、美的感覚も初歩的なものしか持ち合わせていなかった。 「私のような年寄りには新しいことを学べないもんだ」と、彼はしみじみ言った。「エネルギーとバ…
8月のある夜、彼らは正装して馬車に乗り込み、ボルチモア郊外にあるシェヴリン家のカントリーハウスで開かれるダンスに出かけて行った。素晴らしい夜だった。満月が道路を鈍いプラチナ色に輝かせ、遅咲きの花々が止まった空気の中に、低い笑い声のような香り…
1880年、ベンジャミン・バトンは20歳となり、誕生日を祝うために、父親の経営する金物卸売会社ロジャー・バトン・アンド・カンパニーに出向いた。この年に、彼は「社交界デビュー」も果たしていた。つまり、父親が彼をファッショナブルなダンスに何度か連れ…
「あいつは、さまよえるユダヤ人 (磔刑に向かうイエスに毒づいたため、イエス再臨まで地上をさまようように呪われた) だ!」 「あの年なら予備校に行くべきだ!」 「見てごらん、神童の成れの果てさ!」 「ここが老人ホームだと思っているんだ」 「ハーバー…
本文中にある bustle ってこんなのだった。スカートを形作るための骨組みみたいなもの。 女の人が後ろに大きなものをくっつけるって、日本の帯で形作るお太鼓と同じ発想だなって思った。 〈ここから本文〉 しかし、彼はそう簡単には逃げられない運命にあった…
ハート氏はドアを開けて叫んだ。「とんだでまかせだ!君のような年齢の人が、新入生として入学しようだなんて!18歳だって言うんですか?ならば、18分で街を出て行きなさい」 ベンジャミン・バトンは胸を張って部屋を出ると、ホールで待っていた5、6人の学生…
クリスマスはどう過ごしてる? ケーキを食べてるかな? あ、お仕事ですね 自分が住んでいるシドニーはほぼ全てのビジネスがお休みです。日本の元旦みたい。 学生課担当者は顔をしかめて、目の前のカードに目をやった。「ですが、ベンジャミン・バトン君の年…
入学して3日目に、大学の学生課担当であるハート氏から、オフィスに来てスケジュールを調整するようにとの連絡があった。鏡を見たベンジャミンは、自分の髪を茶色に染め直さなければならないと思った。不安な気持ちで洗面台の戸棚をのぞいたが、染料のボトル…
グレート・ギャッツビー の語り手、ニックが行ったイエール大学が出てる。作者のフィッツジェラルド、この大学が好きなんだね。でも、ベンジャミンがいい待遇を受けてないので、嫌いなのかな。😂🤣😂 ベンジャミン・バトンの12歳から21歳までの人生については、ほ…
この時代の髪染めってどんなのだったんだろうね。 Not much changed until the 1800s, when English chemist William Henry Perkin made an accidental discovery that changed hair dye forever. In an attempt to generate a cure for malaria, Perkins cr…
ベンジャミン、両親とも打ち解けてきてよかったね。それにしてもすごいリアリティ。作者のフィッツジェラルドには娘さんがいたんだった。 5歳になると幼稚園に入れられて、オレンジ色の紙に緑色の紙を貼り付けたり、色見本を作ったり、長々としたダンボール…
ボルチモアで巻き起こった騒動は、最初はとんでもないものだった。南北戦争の勃発により、街の関心が他のことに移っていたため、この災難がバトン氏とその親族にどれほどの心痛を与えたかは知る由もない。少数の礼儀正しい人たちは、いかに両親が喜ぶことを…
ベンジャミンが健気すぎる。その健気さに両親も心が動いてきたね。 病院を出たベンジャミンは、自分の人生は自分で切り開いてきた。幼い男の子たちと一緒に、退屈な午後を、コマやビー玉に無理矢理興味を持とうとする事で切り抜けた。偶然にも、パチンコでキ…
しかし、バトン氏は決して諦めなかった。鉛の兵隊を買ってきたり、電車のおもちゃを持って帰ったり、大きなかわいい動物のぬいぐるみを与えたり、自分が抱いている理想の息子像を満足させるために、おもちゃ屋の店員に「赤ちゃんがピンクのアヒルを口に入れ…
この写真、近所の家の前で撮ったんだよ。自分の住んでるところはシドニー都心から5キロぐらいなんだけど、こういう鳥が普通にいる。最初はオウムがいると思ってびっくりしたよ。ハトよりひと回り大きい。Cockatoo いう名前。オーストラリアからの持ち出しは…
そうだよね、新生児の世話といって雇われて、行ったらおじいさんがいるんだから、雇われた人が怒るのは仕方ないよね。 バトン家に新しく加わった息子が、髪を短く切り、不自然なまだらな黒に染め、皮膚が光り輝くほどきっちりとヒゲを剃り、注文を受けた仕立…
不審な振る舞いをするバトン氏への店員の対応がおかしい。 Methuselah メトセラは旧約聖書に出てくる長老の名前で969歳まで生きたとされているんだって。 2章が全部入っているので、最後まで見てね。4ブロックに分けました 「おはようございます」 バトン氏…
お父さんに杖を欲しがる生まれたての赤ん坊なんて前代未聞。フィッツジェラルド、笑いながら書いたんだろうな それにしても、この時代、奴隷市場があったのかな。法的には1865年12月にケンタッキーで約4万人の奴隷が解放されたのが奴隷制の最後と言われてい…