夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 XI-1

にばんめのほしには、うぬぼれやがすんでいた。
「ああ!またわたしの、すうはいしゃがやってきた!」
ちいさなおうじさまが、やってくるのがとおくにみえると、うぬぼれやがいった。うぬぼれやにとって、ひとはみんなすうはいしゃだった。

「こんにちは」
ちいさなおうじさまがいった。
「かわったボウシですね」
うぬぼれやはこたえた。
「このボウシは、あいさつをするためのものだよ。みんなが、わたしをほめたたえたとき、すこしもちあげてあいさつするんだ。だれもここをとおりかからないのはざんねんだが」
「えっ?」
おうじさまには、いわれたいみがわからなかった。
「てをたたいてごらん」
うぬぼれやはいった。
おうじさまがてをたたくと、うぬぼれやは、ボウシをもちあげてあいさつした。
「これなら、おうさまのところより、おもしろそうだ」
おうじさまは、つぶやいた。そしてまたてをたたくと、おとこはボウシをもちあげてあいさつした。
でもすこしつづけると、かわりばえしないあそびにあきてきた。


「ボウシをおろしてもらうには、どうすればいいんですか」
おうじさまはきいてみた。でも、うぬぼれやは、むしした。うぬぼれやには、ほめことばしかみみにはいらないのだ。
「きみは、ぼくをすうはいしているかい?」
うぬぼれやはきいた。
「『すうはい』ってどういういみですか?」
「ぼくをすうはいするってことは、ぼくがこのほしで、いちばんかっこよくて、いちばんきているふくのセンスがよくて、いちばんかねもちで、いちばんかしこいっておもうってことさ」
「だけど、このほしには、あなたしかいないじゃありませんか!」
「ぼくのためにやってくれたまえ。とにかくすうはいしてくれ」
おうじさまはちょっとかたをすくめていった。
「あなたをすうはいします。だけど、どうしてそんなことがそんなにだいじなんですか?」


そして、おうじさまは、でかけていった。
「やれやれ、おとなは、ほんとうにへんだな」そうつぶやきながら、またたびをつづけた。