夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 XV-1

むっつめのほしは、さっきのほしよりも、じゅうばいもおおきかった。そこには、あついほんをかいている、としとったはかせがすんでいた。
「おやおや!たんけんかがきたぞ!」ちいさなおうじさまがやってくるのをみると、はかせはいった。ちいさなおうじさまは、テーブルについて、いきをはずませていた。ずいぶんたびしてきたし、とってもとおくまできたのだから!
「どこからいらっしゃったのじゃね?」はかせはいった。
「このぶあついほんは、なんですか?」ちいさはおうじさまはきいた。「なにをなさっているんですか?」
「わしは、ちりのはかせじゃ」はかせはこたえた。
「ちりのはかせってなんですか?」おうじさまはたずねた。
「ちりのはかせとはじゃな、うみや、かわ、まち、やま、さばくがどこにあるかを、すべてしっているはかせのことじゃよ」
「おもしろそうですね」おうじさまはいった。「やっと、ちゃんとしたしごとをしているひとにあえた!」
そして、はかせのいるほしをみわたしてみた。これまでみたなかで、いちばんおおきくて、どうどうとしているほしだった。

「あなたのほしは、とてもうつくしいですね。うみはあるんですか」おうじさまはたずねた。
「それはしらん」はかせはこたえた。
「えっ!」おうじさまはがっかりした。
「やまはあるんですか?」
「それはしらん」はかせがいった。
「まちや、かわや、さばくはどうですか?」
「それもしらん」
「でも、あなたは、はかせでしょう!」
「そのとおり!」はかせはいった。
「しかし、わしは、たんけんかではないんじゃ。わしのほしには、たんけんかはひとりもおらん。でかけていって、まちや、かわや、うみや、さばくのかずをかぞえるのは、ちりのはかせのすることではない。はかせほどのりっぱなものが、そとをほっつきあるくわけにはいかんからな。つくえをはなれるわけには、いかんのじゃ。かわりにな、たんけんかをしょさいにまねく。はかせはいろいろとしつもんをして、たんけんかのはなしをかきとめる。そして、なにかきょうみぶかいはなしがあれば、こんどは、そのたんけんかのせいかくについて、さらにしつもんするんじゃ」
「どうしてですか」
「もし、たんけんかのはなしにうそがあれば、ちりのほんがだめになってしまう。それは、さけをのみすぎるたんけんかにもいえることじゃ」


「どうしてですか」おうじさまはたずねた。
「よっぱらえば、ものごとがにじゅうにみえるでな。ちりのはかせは、やまがひとつしかないところを、ふたつあるとかいてしまうかもしれん」
「ぼくは、できのよくないたんけんかになりそうなひとをしってます」
おうじさまはいった。
「それはありそうなことじゃな。それから、たんけんかが、たしかなにんげんだとわかれば、こんどははっけんについてきくのじゃよ」
「それからたしかめにいくんですか?」
「いや、それではややこしすぎる。たんけんかから、しょうこをひとつだしてもらえばよい。たとえば、おおきなやまをたんけんしたひとには、やまからもちかえった、おおきないしをだしてもらうのじゃ」


はかせは、そこできょうみぶかそうにきいてきた。
「しかし、おまえさんは、どこかとおくからきたんじゃないか!おまえさんこそ、たんけんかじゃよ!おまえさんのほしのはなしをしておくれ!」
それから、おおきなほんをひらいて、エンピツをけずりはじめた。たんけんかからのはなしは、まずエンピツできろくするのだ。たんけんかがしょうこをだしてから、こんどはペンでかきはじめるのだった。
「さぁ、はなしておくれ」そういいながら、はかせは、きたいがこもっためをむけた。


「あぁ、ぼくがどこにすんでいるかですよね」おうじさまはいった。「それほど、きょうみぶかいってことでもないんですけど。なにもかもとってもちいさいですし。かざんがみっつあります。そのうちふたつは、もえていますが、ひとつはきえています。でも、しょうらいは、どうなるかはわかりませんけど」
「しょうらいは、どうなるかはわからない」はかせは、くりかえした。
「それから、はながさいています」
「はなのことは、かきとめんのじゃよ」はかせはいった。
「どうしてですか?そのはなが、ぼくのほしではいちばんきれいなんです!」
「そんなことはきろくできん。はなは、えいえんでないからじゃよ」はかせはいった。
「『えいえんでない』ってどういうことですか?」
はかせはいった。
「ちりのがくもんとはじゃな、すべてのがくもんのなかで、いちばんじゅうだいなものなんじゃ。ぜったいにふるくならん。やまがうごくことはめったにない。うみがカラカラになることもめったにない。ちりのはかせは、えいえんにあるものだけをきろくするんじゃ」
「だけど、ひがきえたかざんだって、いつかもえだすことも、あるかもしれないじゃありませんか。えいえんでないってどういういみですか?」おうじさまはくちをはさんだ。
「かざんがもえていても、いなくても、わしら、ちりのはかせにとってはおなじことじゃ。わしらにとってだいじなことは、やまそのものじゃ、やまはうごかん」


「だけど、『えいえんでない』ってどいうことなんですか」
おうじさまはくりかえした。いちどきけば、こたえがもらえるまでぜったいにあきらめないのだ。
「それはじゃな、『みじかいあいだにきえてしまう』ということじゃ」
「それって、ぼくのはなが『みじかいあいだにきえてしまう』ってことなんですか?」
「もちろんじゃとも」
「ぼくのはなは、もうすぐきえてしまうかもしれないんだ」おうじさまはつぶやいた。
「あのはなは、たった4ほんのトゲだけでじぶんをまもらなければならないんだ。それなのに、ぼくは、あのほしにおいてきて、ひとりぼっちにしてしまった!」


そこではじめて、おうじさまはこうかいした。でも、ゆうきをだして、もういちどたずねた。
「こんどは、どこへいけばいいとおもいますか?」
「ちきゅうじゃな。いいところらしいぞ」はかせはこたえた。


そしておうじさまは、たびだった。はなのことをかんがえながら。