夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 XXIV-1

さばくでじこにあってから、ようかめのことだった。その、しょうばいにんのはなしをきいていたとき、てもとにあるみずがおしまいになった。
「あぁ!」ぼくはちいさなおうじさまにった。「きみのおもいでばなしは、かわいらしいね。でも、まだひこうきのしゅうりがおわってないんだ。それに、のみみずもなくなってしまったし。きれいなみずのでるいどまで、たのしくゆっくりあるいていければ、どんなにうれしいだろうに!」
「ともだちのキツネが・・・」おうじさまがいった。
「ぼうや、いまはキツネなんか、かんけないよ!」
「どうして、かんけいないの?」
「だって、もうすぐのどがからからにかわいて、しんでしまうんだよ・・・」
「でもしぬときだって、ともだちがいれば、うれしいとおもうよ。たとえば、ぼくは、キツネとともだちになれたことが、ほんとうにうれしいし・・・」


「このこは、しぬってことが、わかってないんだ」と ぼくはおもった。「おなかもすかないし、のどのかわきもしらない。ただ、おひさまのひが、すこしでもあたりさえすればいいんだ・・・」
でも、おうじさまは、ぼくをじっとみて、ぼくのかんがえていることが、わかったようにいった。
「ぼくだって、のどがかわいてるよ。だから、いどをさがしにいこうよ・・・」
ぼくは、つかれたふりをしてみせた。こんなひろいさばくを、めくらめっぽうにあるいて、いどをさがすなんて、まったくばかげていた。それでも、ぼくたちはあるきだした。


だまって、とぼとぼと、なんじかんもあるいていると、ひがくれて、そらにほしがでた。のどがかわいているせいか、ねつがあり、ほしをみあげると、ゆめをみているようなきがした。
おうじさまのことばが、ぼくのなかでいとをたぐりよせるように、よみがえってきた。
「きみも、のどがかわいているの?」ぼくはきいてみた。
でも、おうじさまは、しつもんにはこたえなかった。ぼくのしつもんには、めったにこたえてくれない。
「みずは、こころにもいいんだよ・・・」
おうじさまのいっていることが、わからなかったけれど、なにもいわなかった。ききかえしたって、どうせいみをただすことなんか、できっこないんだから。


やがて、おうじさまはつかれてすわりこんだ。ぼくもとなりにすわった。しばらくだまっていたけれど、おうじさまが、はなしかけてきた。
「ほしがきれいなのは、めにはみえないけど、はながさいているからだよ」
「ほう、そうかね」わたしはあいづちをうった。
そしてなにもいわずに、つきあかりのしたにひろがる、すなやまのなみをみていた。
「さばくは、ほんとにきれいだね」おうじさまがいった。
それは、ほんとうだった。さばくのすなやまにすわっていれば、なにもみえないし、なにもきこえなかった。でも、ときどき、しずけさをやぶって、なにかがおとをたてて、なにかがひかるのだった。
「さばくがきれいなのは、どこかにいどをかくしているからだよ」


なぜすなが、かがやいているのかが、きゅうにわかってきて、おどろいた。子どものころ、ふるいいえにすんでいた。どこかに、たからものがうまっているという、いいつたえがあった。でも、どこをさがしたらいいのか、だれにもわからかなかったし、さがしたひとさえ、いなかったかもしれなかった。でもそのいいつたえのおかげで、いえは、かがやいてみえた。おくふかくに、ひみつをかくしもっていたからだ。
「そうだね」とぼくはおうじさまにいった。「いえも、ほしも、さばくも、うつくしいのは、めにみえないもののおかげなんだね」
「キツネときがあうなんて、うれしいよ」とおうじさまはいった。


おうじさまはねむってしまったので、だきかかえて、またあるきだした。
いろんなおもいがこみあげてきた。なんだか、とてもこわれやすいたからものを、かかえているようなきがした。このちきゅうじょうで、これほどこわれやすいものなんて、ないようなきがした。つきあかりに、おうじさまのあおじろいひたい、とじため、かぜにゆれるまきげをみた。
「ここにみえるものは、ただのぬけがらなんだ。ほんとうにたいせつなものはめにみえない・・・」
まるでわらっているように、おうじさまのくちびるがちょっとひらいた。
「こんなにもいとしくおもえるのは、ここにねむっているおうじさまが、じぶんのはなを、あんなにもだいじにしたからだ。ねているあいだも、あのはなのおもかげが、ランプのほのおのように、このこのなかでもえている」そのとき、おうじさまが、いっそうこわれやすいように、かんじられた。かぜがふきつければ、すぐにきえてしまうちいさなあかりみたいに。おうじさまには、まもってあげるひとがひつようだった。


そしてあるきつづけて、ひのでとともに、いどをみつけた。