夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 XXV-1

ちいさなおうじさまはいった。「ひとは、とっきゅうれっしゃをつくりながら、なにをさがしているかがわからないんだ。だから、いそいででかけていって、こうふんして、ぐるぐる、ぐるぐるまわってる・・・」
それからまたつけくわえた。
「そんなにむずかしくすることもないのに・・・」


みつけたいどは、さばくのいどにはみえなかった。サハラさばくのいどは、すなにあなをほっただけのものだった。でも、このいどは、むらのいどみたいにちゃんとしていた。でも、どこにもむらがみえないので、まるでゆめのなかにいるようだった・・・
ぼくは、おうじさまにいった。
「へんだね、ベルトぐるまに、バケツ、ロープ、ぜんぶそろってる・・・」

王子さまはわらって、ロープをひろい、ベルトぐるまにひっかけた。ながらくつかわれていなかった、かざみどりのように、ベルトぐるまがきしんだ。
おうじさまはいった。「きこえる?いどをおこしたから、うたいだしたよ」
ロープなんかひっぱっらせたら、おうじさまがつかれてしまう。
「ぼくにまかせて。きみにはおもすぎるから」
ゆっくりと、バケツをいどのはしまでひきあげた。つかれてはいたけれど、まんぞくだった。ベルトぐるまのきしみは、いまでもみみにのこっているし、しずかにゆれるみずに、おひさまがさしていたのもおぼえている。


「このみずがのみたかったんだ」おうじさまがいった。
「のませてくれないかな・・・」
おうじさまがなにをさがしていたのかがやっとわかった。
バケツをおうじさまのくちびるにそっとちかづけてあげた。おうじさまはめをつぶってのんだ。
そのみずは、おまつりのおもいでのように、あまかった。ただのみずじゃなかった。なんにちも、ほしのしたをあるいて、ベルトぐるまがうたい、ちからをだしきったから、とくべつにあまいのだ。プレゼントのように、こころをやさしくみたしてくれた。ぼくがこどものころ、クリスマスツリーのあかりや、よるのミサのおんがく、やさしいえがおが、もらったプレゼントをいっそうひきたててくれたように。
小さなおうじさまが、はなしかけてきた。
「きみのところにいるひとは、5せんぼんのバラをうえているのに、なにをさがしているかがわからないんだ・・・」
「みつからないだろうね」ぼくはこたえた。
「だけど、いっぽんのバラのなかや、ちょっとのみずのなかに、あるかもしれないのに」
「そうだね」ぼくはいった。
おうじさまはつづけた。
「めでみてもだめだよ。こころでみなきゃ・・・」

みずをのむと、いきがしやすくなった。ひのでとともに、すながはちみついろにそまった。はちみついろをみるとうれしくなってきた。でも、このかなしさはどこからやってくるんだろう。
「やくそくをまもってよね」おうじさまは、となりにすわって、やさしくいった。
「なんのやくそく?」
「ほら、ヒツジのくちわだよ・・・ぼくは、はなを、まもってあげなきゃいけないんだ・・・」
ぼくは、ポケットから、えのれんしゅうちょうをとりだした。おうじさまは、それをみて、わらっていった。
「バオバブのきが・・・キャベツみたいだね」
「えっ!」
バオバブは、よくかけたとおもったのに!


「キツネは・・・みみがとがっていて、まるでつのみたいだね。ながすぎるよ」
そしておうじさまは、またわらった。
ぼくはいった。
「それはいいすぎだよ。大ヘビのなかみとそとみをかくことしか、しらないんだから」
おうじさまはこたえた。
「だいじょうぶ。こどもならわかってくれる」


それから、くちわをエンピツでかいてあげた。それをあげたとき、むねがはりさけそうになった。
「なにか、かくしてるんじゃないかい」ぼくはいった。
「ちきゅうにおりてきたんだけど・・・あしたが、きねんびなんだ」
しばらくだまって、おうじさまはまたいった。
「このちかくに、おりてきたんだよ」
そういって、あかくなった。
また、どうしてかわからないけど、ぼくは、かなしいきもちになった。
でも、ひとつだけきいてみた。
「じゃあ、あのあさ、さいしょにであったのは、ぐうんぜんじゃなかったんだね。いっしゅうかんまえ、きみは、ひとりでだれもいないところを、とぼとぼとあるいていたね。さいしょにおりたところに、もどろうとしていたんだね?」
おうじさまは、またあかくなった。。
ぼくは、またいった。
「きっと、ちょうどいちねんめだからだね?」
おうじさまはまたあかくなった。おうじさまは、ぜったいしつもんにはこたえてくれないけれど、あかくなったってことは「そうだ」ってことだよね?


「あぁ!なんだかしんぱいだよ・・・」ぼくはいった。
おうじさまはそれをさえぎった。
「さあ、しごとにもどって。きかいをなおさなくちゃいけないでしょ。ここでまってるよ。あしたのよるに、あいにきて・・・」
ちょっときがかりだった。キツネのことをおもいだした。なかまになるってことは、あとでちょっぴりなくようになることも、かくごしなければいけないのかも・・・