夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

ポリアンナ 第12章 婦人会の集まりで

婦人会のある日の午後、ハリントン屋敷では、昼食が静かに始まっていました。ポリアンナはなんとかしてしゃべろうとしていましたが、うまくいきませんでした。どうしても口が滑って「うれしい」といってしまい、きまずくなって顔を真っ赤にしていました。こういうことが5回も続いたとき、ポリーは根負けしたようにいいました。

「やれやれ、あなたがいいたいんだったら、いってしまいなさい」ため息をつきながらいいました。「こんなばかげたまねをされるぐらいだったら、いってもらったほうがいいくらいです」
難しい顔をしていたポリアンナは安心したようにいいました。
「ああ、ありがとうございます!それをいわないのは、ほんと難しいわ!だって、ずいぶん長くやっていたんですもの」
「やっていたって、何をですか?」ポリーおば様が厳しい口調でいいました。
「ゲ、ゲームです。お父・・・」ポリアンナはここでやめると、困りきったように真っ赤になって、了解も得ないうちに外へ逃げ出してしましました。

ポリーおば様は顔をしかめましたが、何もいいませんでした。昼食は静かに続けられました。

それからしばらくして、ポリーおば様が電話で、頭痛のため婦人会には出席できないと、牧師の夫人にいっているのを聞いたとき、ポリアンナは気の毒には思いませんでした。ポリーおば様が屋根裏部屋にやってきたとき、ポリアンナはなんとか心配そうに頭痛の具合を聞きましたが、ジミーの件を婦人会に掛け合おうとしているときに、おば様が来なくて、内心良かったと思わずにはいられませんでした。ポリーおば様がジミーをこじきと呼んだことが胸に刻まれており、もしみんなの前でそういわれては困ると思ったからです。

婦人会は家から半マイルほどのところにある教会の隣の礼拝堂で、2時から開かれることがわかっていました。だから教会に3時前に着くようにすればいいと思いました。

「みんないればいいんだけど。そうじゃなかったら、ジミー・ビーンを家に引き取りたいって人さえいてくれれば。2時といってたって、婦人会に人たちがほんとうに集まるのは3時なんだから」

静かに、しかしきっぱりと決意を固めて、ポリアンナは礼拝堂の階段を上り、ドアを開けて玄関に入りました。女性の静かな話し声と笑い声が広間から聞こえてきました。

一瞬ためらいましたが、ポリアンナは広間の戸を開けました。

話し声は瞬時に消え去って、みんな口を閉じました。ポリアンナは少しもじもじして進み出ました。ついに出番がやってきたのですが、いつになく内気になっていました。少しは知っている顔をもあるものの、この人たちは、自分がよく知る婦人会の人ではありませんでした。

「婦人会のみなさん、こんにちは」はずかしそうにしながら、丁寧にいいました。
「わたしはポリアンナ・ホイッターです。中にはご存知の方もおられるでしょうけど、たぶん。ここに来るのは初めてですから」

みんな静まりかえりました。ほとんど全員がポリアンナを見知っていましたし、ポリーの「変わった姪」であると聞いている人もいました。でも、ポリアンナにどういってあげていいか誰もまったくわからなかったのです。
「今日は、み、みなさんに、お、お願いがあって、き、来ました」しばらくおいて、ポリアンナはどもりながら、無意識のうちにお父様の口真似をしていました。

会場が少しざわついてきました。

「あ、あなたのおばさんが、ここに寄こしたの?」
牧士の奥さんである、フォード夫人がいいました。

「いえ、自分から来たんです。わたしは婦人会に慣れているんです。だって、お父様と婦人会の人に育てられたんですから」

突然吹き出す人がいました。フォード夫人は眉をひそめていいました。
ポリアンナ、何がいいたいんですか?」
「えっと、ジミー・ビーンのことなんです」ポリアンナはため息をつきました。
「ジミーは孤児院のほかに行くところがないんですが、孤児院はいっぱいで、ジミーにいてほしくないんです。ジミーはそう思ってるんです。ジミーは、普通の家庭と、寮母さんではなく面倒をみてくれる家族を欲しがっています。今10歳ですが11歳になるところです。もし、みなさんの中で誰かジミーと一緒に住みたいって人がいるんじゃないかと思って」

「そうかい、そうかい!」ポリアンナの話が終わると沈黙を破って誰かがつぶやきました。

ポリアンナは心配そうな目つきで、婦人たちを見回しました。

「あら、忘れてました。ジミーは働くそうです」ポリアンナは熱を込めてつけたしました。

それから冷たい沈黙が流れました。ポリアンナに質問をする人がありました。それから、盛んに自分たちだけで話していましたが、見ていて心地よいものではありませんでした。

ポリアンナはどきどきして、おしゃべりを聞いていました。いっていることで聞き取れない部分もありました。聞いていると、中には小さな息子がいない人もいたので、誰かがジミーを引き取るだろうと、みな思ってはいたようでしたが、誰もジミーにやれるような家はもっていないことがわかりました。そして、結局、ジミーを引き取ろうといってくれる人は誰もいませんでした。それから、牧師の奥さんが、ためらいながら、婦人会全体の意思として、その年の基金はインドの恵まれない子供たちに回すべきではないかと提案するのが聞こえました。

婦人たち、みんなが、ぺちゃくちゃと話し始めました。中には一人で話し続ける人がいたりして、だんだん話し声が大きくなり、聞き苦しくなってきました。この婦人会はインドの子供たちを助けることに主眼を置いているようで、もし今年のインド基金が少ないようなことがあれば恥ずかしくて死んでしまいたいといっている人もいました。ポリアンナに向かって異議を申し立ててくる人もいました。ポリアンナには難しいことはわかりませんでしたが、婦人会の基金は、規約に列挙されている項目に基づいて運営されることが一番大事で、項目に基づいてさえいれば、基金の実際の使い道は問題ではないというように聞こえました。そう聞こえただけで、本当はそうじゃないのでしょうけど! 

何をいわれているのかよくわからなくて、居心地が悪かったので、やっと静かな外に出れて、さわやかな空気を吸ったとき、開放されてうれしいと思いました。それと同時に、婦人会が基金全部を同じ町に住む一人の男の子にではなく、インドの男の子たちのために送ることに決めたことを、次の日、ジミー・ビーンにいわなくてはならないことが、つらく感じられました。でも、メガネをかけた背の高い夫人から、ジミーを助けることは規約に沿わないといわれたのでした。
「もちろん、異教の地にお金を送るのが悪いっていってるんじゃないわ。でも、全部送ることはないでしょうに」ポリアンナはためいきをついて、独り言をいいながら、とぼとぼと悲しそうに歩いていました。「まるで、同じ町にいる男の子は助けなくてもいいっていわんばかりだったじゃない。気にかけてるのは、外国にいる男の子の方だって。規約じゃなくて、ジミー・ビーンがどう成長するかを見てほしいものだわ!」