夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

ベンジャミン・バトン やっぱり英語の冠詞は難しい

f:id:Soraike123:20200827122859j:plain

 

前回のブログでは、結局、いつもtheを使ってればいいんじゃない?という感じになってしまいました・・・

 

そうなんでしょうか?確かにビジネスの場合では、相手と共通の認識を確認しながら話を進めていくので、the でいいのかもしれませんね? 「その商品が・・・」「そのご提案は・・・」と、相手も何について話しているかが分かっている場合ですから。

 

でも、a でなければいけない場合があるはずという疑問が拭えません。

 

 

ベンジャミン・バトン1-1を見てみましょう。

 

I am told, the high gods of medicine have decreed that the first cries of the young shall be uttered upon the anaesthetic air of a hospital, preferably a fashionable one.

 

現在では、神がかり的な医学の進歩が、新生児の産声は病院の麻酔薬の匂いが漂う中で、願わくばおしゃれな病室で発せられるべきだと定めたらしい。

 

 

ではここで出題です。

 

The anaesthetic air of a hospital では、なぜ a hospital になっていて、the hospital ではないのでしょうか。

 

 

 

 

 

The anaesthetic air で、出だしはtheなのに、hospital a って面白いですよね。もちろんair は普段は不可算名詞ですから、the で良さそうですが、air でも「雰囲気」を表すときは、可算名詞になります。例えばこういう場合です。

 

He began to put on airs and think he could boss us around.

 

おぉぉぉぉ・・・ なぜ、ここで air がいきなり数えられる名詞に変身するんでしょうか? ネイティブは、一場面だけではなく、あらゆる状況でそういう雰囲気、この場合は「オレがボスだ!」という感じをプンプンさせているという風に取るんでしょうね。だから複数形なんでしょう。put on airs と ひとかたまりにして覚えた方が良さそうです。

 

 

さて、ベンジャミン・バトン引用内の the anaethetic air は、あの病院特有の薬臭い空気のことで、読者も「ああ、あれね」と納得する状況です。だから the ですね。

 

それに対して、ここでいう hospital は、特に決まっていない、たくさんある病院のうちの一件という意味なので a hospital が自然です。ここで the hospital とすると、読者は「どこの病院のこと?」と面食らってしまいます。ですから、この場合には the ではダメなんです。

 

同じ理由で、 a fashionable one a も、fashionable の感じ方も人によってそれぞれかもしれないし、特に「これ」と特定する必要はないですよね。だから、the は使いません。

 

もう一歩突っ込むと、作者は the anaesthetic air と、読者の病院に対するネガティブなイメージを喚起して読者の心をつかんでいるので、患者が手術に耐える辛い場所の中の a fashionable one、こじゃれた病室ですから、なんとも風刺が効いていて、思わずニヤリとさせられます。フィッツジェラルドはうまいのです。

 

 

the first cries of the young 

 

二つの単語、cries と young  に the がついています。

 

The first cries の the は順番を表す the ですね。例えば、競技の中で、the first, the second... 一位、二位・・・と、みんながなんの順番か理解できる場合にくる the です。この場合も、赤ちゃんが最初に上げる泣き声で、いわゆる産声ですね。

 

the young の the は the + 形容詞 で 名詞形を作る用法です。この場合では、赤ちゃん、新生児という意味になります。これは軽くクリアでしょう。

 

 

さて、今日の最後の問題はこれです!

 

the high gods of medicine とありますが、なぜ the がついているのでしょうか?

 

実は、the + 名詞 で 抽象名詞を作るという用法があるんです。

 

例えば、She is a mother of Anne だったら、「彼女はアンのお母さん」という意味で、誰もが持っている「お母さん」という意味ですが、the mother とすると、「母性愛」という感じで、人間としてのお母さんではない、「お母さんの特性」というニュアンスになるんです。

 

Necessity is the mother of invention.

 

「必要は発明の母である」ということわざがありますが、このthe mother はもちろん生物学的な「お母さん」ではなく、物事を生み出す素という象徴的な意味になります。

 

 

ベンジャミン・バトンの引用に戻ると、the high gods of medicine の the high gods は、「医学の中の神がかり的な特性」というニュアンスです。作者が gods としたのは、医学の中にも、内科、外科、産婦人科・・・と様々な分野があって、そのどれもが飛躍的な進化を遂げているとイメージしていることによるんだと思います。それと、様々な神々が違う役割をになっているギリシャ神話のようなものを想定したのかもしれません。

 

 

ブログを読んでいただいてありがとうございます。

これからもよろしくお願いします🤲