夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

ポリアンナ 第28章 ゲームとその参加者たち

ジョン・ペンデルトンが二度目に訪れてからほどなくして、ある日の午後、ミリー・スノウがやってきました。ミリー・スノウがハリントン屋敷を訪れるのは初めてのことでした。ポリーが客間にやってきたとき、ミリーは赤くなって、とても恥ずかしそうにしていました。

「あ、あたしは、お嬢さんの様子をうかがいに来たんです」ミリーはどもりながらいいました。
「ご親切にありがとう。あの子は変わりありません。あなたのお母さんはいかがかしら?」疲れたような顔つきをして、ポリーは答えました。
「それをいいに・・・来たんです。ポリアンナさんに伝えてください」ミリーは息をはずませて、意味不明なことを、大慌てでいいました。
「あたしたちは、ほんとに・・・ほんとに・・・あんな小さい子がもう歩くことができないなんて、なんてつらいんだろうねって、いってるんです。あたしたちに、こんなに親切にしてくれたのに・・・お母さんには、ご存知でしょう、ゲームのことを教えてくれたし、それから、他のことも。それなのに、今は、あの子がもう自分ではゲームができないっていってるって。なんてかわいそんなんでしょう!あたしだって、あんな状況になれば、どうゲームに挑戦していいかわからないわ!でも・・・あの子があたしたちにいってくれたことを、思い出していたら、あの子が、これまでどれだけ人を助けてきたかを思い出してもらいたいって思ったんです。そしたら、それが支えになると思って。あの子も、それで喜べるって・・・ちっちゃい喜びかもしれないけど」ミリーは、ここで力なく話し終え、ポリーの返事を待っているようでした。

ポリーは丁寧に聞いてはいましたが、まるでわかっていないという顔をしていました。いわれたことの半分しかわからなかったのです。ミリー・スノウは「変わっている」とこれまでずっと思っていましたが、まさか、頭がおかしいはずはありませんでした。でも、ミリーのいったことは、支離滅裂で、わけのわからない言葉の羅列でしかありませんでした。ポリーは静かに沈黙を破りました。
「残念ながら、あなたのいったことがよくわからないのよ、ミリー。姪にはなんて伝えたらいいのかしら」
「ええ、それなんです。こう伝えてください」ミリーは熱を込めていいました。
「あの子がどれだけ、あたしたちを助けてくれたかって、いってください。もちろん、あの子は少しは知ってますけど、うちにも来てくれたし、お母さんが変わったことも知っているし。でも、うちのお母さんが、どれだけ変わったかってことを伝えてほしいんです。それから、あたしも、です。あたしも変わりました。あたしも、ゲームを少し・・・やってるんです」
ポリーは眉をひそめました。ミリーがいう「ゲーム」の意味を聞きだそうとしましたが、そのチャンスはありませんでした。ミリーは、恥ずかしそうに、また急いで話し始めました。
「これまでは、うちのお母さんは、なんでも気に入りませんでした。いつも何か違う物を欲しがりました。それに、ほんとに、あんな状況にいるお母さんを、あまり責める気にもなれませんでした。でも、今は、あたしに日よけを開けさせるし、身だしなみや寝巻きにも気を使うようになりました。それから、お母さんは編み物まで始めたんです。慈善市や病院にあげるための飾り紐や赤ちゃんの毛布みたいな小物です。お母さんは、編み物を楽しんでるんです。それに自分にもできることがあったって、うれしがってるんです。それが・・・ポリアンナさんがやってらっしゃることなんです。お母さんに、手と腕が使えることを喜べって教えたんです。お母さんは、すぐに、手と腕を使ってできることはないかって、考え始めたんです。だから、編み物をしようって・・・思いついたんです。それから、病室がどれだけ変わったか、信じられないほどです。赤や青や黄色の毛糸があって、窓にはあの子がくれたプリズムが飾ってあるんです。今はそこに入ると、ほっとするんです。前は、薄暗くて、陰気で、お母さんはとっても・・・不幸せそうで、ひどくつらく感じていたものでした。だから、ポリアンナさんに伝えてください。全部、ポリアンナさんのおかげだって。ポリアンナさんとお知り合いになって、とってもうれしいって。こう伝えてくだされば、あの子も少しはうれしいって思ってくれると思います。これ・・・だけです」ミリーはため息をつくと、急いで立ち上がりました。「伝えてくださいね」
「え、ええ、もちろんです」ポリーは小さくいいましたが、どれだけこの長いおしゃべりを覚えられただろうかと思っていました。

ジョン・ペンデルトンとにミリー・スノウの来訪は、それから続々と続く来訪のさきがけでした。いつも伝言を頼まれるのですが、伝言の意味がよくわからず、ポリーはどんどん混乱していきました。
ある日、若くして夫を亡くしたベントン夫人が訪ねてきました。ポリーは、ベントン夫人を知ってはいましたが、お互いの家を訪ねるほどの仲ではありませんでした。ベントン夫人は、いつも黒い服を着ていて、街中で一番憂鬱な女性だという評判がたっていました。でも、今日、ベントン夫人は首に淡いブルーのリボンを巻いていたのです。目は涙で濡れていましたが。ペントン夫人は、ポリアンナの事故のことにどれだけ嘆き、心を痛めているかを話しました。そして、おどおどしながら、ポリアンナに会わせてくれないかと頼んだのです。
ポリーは首を横に振りました。
「残念ですけど、あの子は誰にもお会いできません。たぶん・・・もう少ししたら状況も変わるでしょう」
ベントン夫人は涙をふいて、立ち上がり出て行こうとしました。でも、玄関のドアのところで回れ右をし、急いで戻ってきたのです。
「ハリントンさん、よろしければ、ポリアンナに・・・伝言をお願いできないでしょうか」そう、どもりながらいいました。
「ベントンさん、もちろんです。喜んで伝えましょう」
小柄な女性はためらっているようでしたが、話し始めました。
「あの子に伝えてください・・・わたしが、これを身につけるようになったことを」
そういいながら、のど元にある蝶結びを指差しました。それから、ポリーが明らかに驚いている前で、こう続けたのです。
「あの子は、わたしに、何か・・・色物を身に着けるようにって、ずっと勧めてくれてたんです。だから・・・わたしが、そうしていることを聞いたら、きっと喜んでくれると思うんです。あの子は、わたしが色を楽しむようになったら、フレディもきっと喜んでくれるだろうっていったんです。おわかりとは思いますが、フレディの思い出が、現在のわたしのすべてなんです。ほかのみなさんは、そんなことはないんでしょうけど・・・」
ベントン夫人は首をふって、顔を背けました。
ポリアンナに、そう伝えていただければ、あの子はわかります」
そういって、ベントン夫人は出て行きました。

それと同じ日に、夫を亡くした婦人が、また、やってきました。少なくとも、婦人の喪服からそう思いました。ポリーがまったく知らない人でした。どうやってポリアンナがこの婦人と知り合いになったのだろうと、内心いぶかしく思っていました。婦人は「ターベル夫人」と名乗りました。

「もちろん、あなたとは面識がないのですが・・・」婦人は話し始めました。
「でも、あなたの姪御さんのポリアンナさんとは知り合いですの。夏中、ホテルに泊まっておりました、健康のために長い散歩に出かけることにしているんです。そして、この散歩の間に、姪御さんに会ったんです。なんてかわいらしい女の子なんでしょう!ポリアンナさんとの出会いが、わたしにとって、どれほど意味があるものだったかをわかっていただきたいのです。ここに来た時、わたしは悲しみにくれていました。そして、お嬢さんの明るい顔と元気な様子を見て・・・何年も前に亡くしたわたしの小さな娘を思い出しましたの。姪御さんの事故のことを聞きましたとき、とてもつらくて、それから、あのかわいそうな女の子が二度と歩くことができないともうかがったんです。あのかわいい子が、もう二度と喜ぶことが見つけられないと悲観しているなんて!それで、お邪魔をせずにはいられなかったのです」

「それは、ご親切に」ポリーは小さく答えました。
「いえ、ご親切なのはそちら様のほうです。わ、わたしは、伝言をお願いしたいのですが。よろしいでしょうか?」
「もちろんですとも」
「それでは、こう伝えてください。ターベル夫人は、今は喜んでいます。ええ、おかしく聞こえることはわかりますし、おわかりいただけないとは思いますが・・・でも・・・ごめんなさいね・・・口では説明できないんです」口元は、悲しそうに引き締まりましたが、目は微笑んでいました。
「姪御さんなら、これだけで、わかってくださると思います。どうしても、伝えていただかなければと思ったんです。ありがとうございました。突然お邪魔した失礼をお許しくださいね」そう頼むと、婦人は立ち去っていった。

だんだんわからなくなってきて、ポリーは上の階のポリアンナの部屋へと急ぎました。
ポリアンナ、ターベル夫人を知っているの?」
「ええ、ターベル夫人は大好きよ。あの人は、病気で、とっても悲しんでいたの。それで、ホテルに泊まっていて、長い時間散歩をしていたの。そして、一緒に歩いたの・・・前はね」
そこでポリアンナは声を詰まらせて、涙がほおを流れました。
ポリーは急いで咳払いをしました。
「いい子ね、夫人がたった今いらっしゃったの。あなたに伝えて欲しいって。でも、どういう意味かはいわれなかったんだけど。ターベル夫人は、今は、喜んでいますって」
ポリアンナは小さく手をたたきました。
「あの人がそういったの?本当に?ああ、わたし、うれしいわ!」
「でも、ポリアンナ、これはどういう意味なのかしら」
「それは、ゲーム・・・」ポリアンナは急いでいうのをやめて、手で口をおおいました。
「何のゲームですか?」
「た、たいしたことじゃないんです、ポリーおば様・・・これを話すと他の、いっちゃいけないこともしゃべらなくちゃならなくなるんで・・・いえないんです」

ポリーには、姪に聞いてみたい質問がのど元まででかかってはいましたが、何もいわなくとも、明らかに少女が苦しんでいる様子がわかったのでした。

ターベル夫人の訪問からしばらくして、劇的な変化が起こりました。ほおを不自然に赤く塗って、髪も異常に黄色に染めて、ハイヒールをはいて、安い宝石を身に着けた若い女性がやってきたのです。ポリーは彼女の評判をよく聞いていて、知ってはいましたが、まさか自分のハリントン屋敷の屋根の下で、この女性と会うことになるとは夢にも思いませんでした。

ポリーは握手を求める手を差し出しませんでした。実際、客間に入ったとたんに後ずさりしてしまったのです。
若い女性は立ち上がりました。目は泣いたかのように真っ赤でした。そして、半ば高飛車に、ポリアンナに少しでいいから会えるかどうか聞いたのです。

ポリーはだめだといいました。非常に冷たい様子でいったのです。でも、女性の頼むような目に動かされて、誰もまだポリアンナには会えないのだと、みなにいっていることを繰り返しました。

女性はためらったようでした。それでも、少しして話し始めました。あごは、まだ少し傲慢そうに持ち上げられていました。
「わたしの名前は、ペイソン夫人です。トム・ペイソンの妻です。もちろん、わたしのことを聞かれたこともあるでしょう。この街のほとんどの人々が知っていることでしょう。でも、うわさは全部本当ではないんです。でも、それは問題ではありません。あの少女のことでうかがったんです。先週、あの子がもう二度と歩けないと聞きました。できることなら、自分のたいして役にも立たない、よくきく両足をあげてしまおうかとさえ思いました。あの子なら、1時間駆け回るだけで、わたしが百年かかってもできないすばらしいことをやってしまいますから。でも、いっても仕方がないですね。足が一番よく使える人に、足があるってわけじゃないってことがわかりました」
そこで、一呼吸置いて、咳払いしましたが、声はかすれたままでした。
「ご存じないかもしれませんが、わたしは、あの子をよくみかけていたのです。わたしはペンデルトンの丘の道路ぞいに住んでいまして、あの子はよく、そこを通りがかったのです。でも、ただ通りがかったわけじゃなかったんです。あの子は、家に入ってきて、子供たちと遊び、わたしに話しかけてくれました。それから、主人が家にいるときは、主人にもです。あの子は、話すのが好きなようで、わたしたちも好いてくれているようでした。たぶん、彼女の階級の人たちは、わたしたちみたいなものとは付き合いをしないってことを知らなかったんだと思います。でも、みんながもっと来てくだされば、ハリントン奥様、わたしのような者は・・・少なくなるのでしょうけど」少し苦々しそうに付け加えました。
「とにかく、あの子は来てくれたんです。それに、あの子は自分が傷つくようなことはしませんでしたし、わたしたちにも親切にしてくれました。ほんとうにです。わたしは、あの子があまり世間のことを知らずに済むことを、または知る機会もないことを願っているんです。そうじゃなけりゃ、あの子には知って欲しくない他のことまで、知ることになるでしょう。
でも、とにかく、そういきさつなんです。今年は、わたしたち夫婦は、いつもより大変な状況でした。なんでもやるつもりだったんです。わたしたちは離婚する決意を固めて、子供たちにもいって聞かせました。子供たちをどうしようと思っていたときに、事故のことがあったんです。そして、あの子がもう二度と歩けないと聞きました。それから、あの子がよく来てくれて、戸口に座って、子供たちをあやしては、笑って・・・喜んでいたことを思い出したんです。あの子はいつも何かを喜んでいました。ある日、ゲームについて話してくれたんです。ご存知でしょう。そして、ゲームに挑戦するようにって、わたしたちを励ましてくれたんです。
それで、今、あのかわいそうな少女が、もう喜べること何もない・・・もうゲームができないって悲しんでいるのを聞いたんです。だから、今日、あの子に伝えようと思ってやってきたのです。あの子が、わたしたちのことを少しでも喜んでくれたらいいと思います。わたしたちは、ゲームに挑戦して、離婚しないことにしました。こう聞けば、喜んでくれると思います。だって、わたしたちが話していたことを聞いて、時々、あの子は気の毒だと思っていてくれたからです。どれだけゲームが助けになったかは、まだいえませんが、きっと状況は変わってくると思います。とにかく、これからも挑戦していきます。あの子がそう望んでいたからです。そう伝えていただけますか?」
「ええ、そう伝えます」
ポリーは少しぼうっとしながら、約束しました。それから何かに突き動かされて、その女性に歩み寄り、手を差し出しました。
「ペイソン夫人、お越しいただいてありがとうございました」ポリーがいえたのはそれだけでした。
つんと上がっていたあごは下がりました。唇は見るからに震えていました。ペイソン夫人は何か聞き取れないことをつぶやくと、ポリーの手をぎゅっとつかみ、振り向くと逃げるように出て行きました。
玄関のドアが閉まるや否や、ポリーは台所にいるナンシーを問いただしに行きました。
「ナンシー!」
ポリーは鋭く呼びました。何日も、わけのわからない、とまどうような訪問客ばかりが続き、その午後、異様な経験をして、ポリーの我慢の限界を超えていました。ポリアンナが事故に遭ってからというもの、ナンシーはそのような厳しいポリーを声を聞いたことはありませんでした。
「ナンシー、街中の人たちがうわさしている、ばかばかしい『ゲーム』について話しておくれ。それから、お願い、わたしの姪がそれとどう関係しているのかもよ。いったいどうして、ミリー・スノウからトム・ペイソン夫人まで、みんなあの子に、『ゲームをしている』と伝えようとするの?わたしがわかる範囲では、街の半分の人が、青いリボンをつけたり、夫婦げんかをやめたり、これまできらいだったことに挑戦するようになって、なんでもかんでもがポリアンナのせいみたいじゃないですか。あの子に直接聞こうとは思ったのですが、さっぱり要点をつかめず、それに、あの子を困らせたくもありませんから・・・とくに、今は。でも、昨日彼女から聞いたところによると、あなたもやっているようですね。さあ、一体何のことか、全部話してちょうだい」
するとナンシーが、突然泣き出したので、ポリーはびっくり仰天してしまいました。
「あの祝福された子が、6月から、街中に、喜ぶことを教えたんですが、今度は街中の人が、あの子に少しでも喜んでもらおうとしているんです」
「喜ぶって、何をですか?」
「ただ、喜ぶんです。ゲームですから」
ポリーは床を踏み鳴らしました。
「ほら、ナンシーあなただって、他の人たちみたいないい方をするわ。一体、何のゲームなの」
ナンシーはあごを上げました。女主人に面と向かい、まっすぐに彼女の目を見つめました。
「奥様、申し上げましょう。これは、ポリアンナお嬢様がお父様から学んだゲームなんです。お嬢様が人形を欲しがっていたときに、寄付の箱に入っていたものは松葉杖だったことがありました。だから、他の子がするように、お嬢様も泣いたんです。そのとき、お父様が、どんなことにだって、何かしら喜べることがみつかるよとおっしゃったそうです。だから、お嬢様は松葉杖が入っていたことを喜べるようになったんです」
「松葉杖に・・・喜んだですって」ポリーは、のどを詰まらせてすすり泣きました。上の階に寝ている女の子の立たない足のことを思い浮かべていました。
「そうです、奥様。あたしも、お嬢様にそういったんです。でもお父様は、喜べることはあるって。だって、松葉杖は必要ないからって!」
「ああ!」ポリーはうなりました。
「それから、いつもゲームをするようになったんです。何が起こっても、喜べることを探すことです。お嬢様は、松葉杖がいらないって喜んでいれば、人形が無いことがそれほど気にならなくなるっていってました。だから、『喜びのゲーム』と呼んだんです。奥様、これがゲームの内容です。お嬢様はそれからいつもゲームで遊んでいるんです」
「でも、どうして、どうして・・・」ポリーはそこで力なくいいやめました。
「奥様、このゲームがどうしてこれほどうまくいくのかを知れば、驚かれますよ」
ナンシーはポリアンナのように熱心に語りました。
「あたしの家で、母や兄弟たちに、お嬢様がどれほどよくしてくださったかは、言葉ではいいつくせないぐらいです。あたしも、たくさん喜ばせてもらいました。小さなこととか、大きなこととか。いろんなことが簡単になってくるんです。たとえば、お嬢様が『ヘフィズバ』って名前じゃなくてよかったわねといってくれてから、ナンシーって名前がそんなにいやじゃなくなりました。それから、月曜日の朝もです。月曜日の朝は、あたしはきらいでした。でも、お嬢様が月曜日の朝も喜べるようにしてくれたんです」
「喜ぶ・・・月曜日の朝をですって!」
ナンシーは笑いました。
「気がおかしいように聞こえるでしょうけど、奥様。でも、説明させてください。あの祝福された子は、あたしが月曜の朝をとてもきらっていることに気がついたんです。だから、ある日、お嬢様はこういったんです。『ねえ、ナンシー、とにかく、月曜日の朝は、他のどの日より喜べることがあるわ。だって、次の月曜日の朝まで丸々一週間あるんですもの!』
それ以来、月曜日の朝はいつもその恵みをうけているんです。奥様、本当に役に立ったんです。とにかく、それを思い出すたびに、あたしは笑えたんです。笑いって、気を軽くしてくれるんです。ほんとです、ほんとです!」
「でも、どうして、あの子は・・・わたしにゲームのことをいってはくれなかったの?」口ごもりながらポリーがいいました。
「どうして、わたしが聞くと、あの子はいつも隠そうとするの?」
ナンシーはためらいました。
「奥様、失礼をお許しください。奥様が、お嬢様にあの子のお父様のことは話してはいけないとおっしゃったからです。だって、あの子のお父様のゲームなんですから」
ポリーは唇をかみました。
「お嬢様は奥様に一番に話したかったんです」ナンシーは少し落ち着かない様子で続けました。
「お嬢様は一緒にゲームができる人を探していたんです。だからあたしも始めることにして、お相手になったんです」
「それから・・・他の人たちは?」ポリーの声は震えていました。
「ああ、たぶん今はほとんどの人たちが知っているでしょう。とにかく、どこに行くにも、ゲームのことを聞きますから。もちろん、お嬢様があたしに話して聞かせてくれたんですが、街の人たちからも聞いていました。それから、ゲームを始めて、街中がだんだん変わってきたんです。お嬢様はいつも笑顔で誰に対しても朗らかでしたから・・・それに、お嬢様自身がいつもうれしそうでしたから、周りも注意を払わずにはいられなかったんです。今度、お嬢様がけがをして、みんなとても気の毒に思っています・・・特に、お嬢様が喜べることが何も見つけられなくなったことを悲しんでいるんです。だから、毎日誰かがやってきて、お嬢様が自分たちをどれだけ喜ぶようにしてくれたかを、話にくるんです。少しでもお嬢様が喜んでくれるようにと思ってるんです。これで、おわかりでしょう。お嬢様はみんなが一緒にゲームをすることを望んでいたんです」
「これから、ゲームを始めようとしてる人がここにいるわ」
そういうと、ポリーはのどをつまらせて、台所のドアから急いで出て行きました。
その後ろで、ナンシーがぼうぜんとして立っていました。
「さて、あたしはこれから、なんだって・・・なんだって信じるよ」小さく独り言をいいました。
「これで、あたしが信じられないってものはなくなったんだ。今度は・・・奥様だって!」
それからしばらくして、ポリアンナの部屋から看護婦が出て行った後、ポリーはポリアンナと二人きりになりました。
「わたしのいい子、今日もまた、違う人がお見舞いに来ましたよ」ポリーはできるだけ平静を装いながらいいました。
「ペイソン夫人を覚えてる?」
「ペンソン夫人ですって?ああ、覚えてるわ!ペンデルトンさんの家に行く途中に住んでいて、3つになるほんとにかわいい女の子と、5歳になる男の子がいるんだわ。奥さんはとってもやさしかったし、ご主人もそうだったわ。ただ・・・二人ともどれだけいい人かってことがよくわかっていなかったのね。時々、けんか・・・意見が合わなかったみたい。それから、貧しくて、牧師じゃないから、もちろん、寄付の箱もなかったわ。わかるでしょう・・・ご主人は違ったの」
ポリアナは少し上気してきて、ポリーも急に赤くなりました。
「でも、奥さんは、貧しくても、時々かわいらしい服を着ていたわ」ポリアンナは少しあわてたように付け加えました。
「それから、とってもきれいな、ダイアモンドとルビーとエメラルドがついている指輪を持っていたわ。でも奥さんは、指輪が一個多いから、それを捨てて、離婚したいっていったの。離婚って何かしら、ポリーおば様?それをいうとき、奥さんが幸せそうじゃなかったんで、きっといいことじゃないと思ったの。それに、もし離婚したら、もうそこには住めなくなって、ペイソンのご主人はお子さんと遠くに行っちゃうかもしれないって。でも、やっぱり指輪をいくらたくさん持ってても、そのままとっておいたほうがいいと思うの。ポリーおば様、離婚って何かしら?」
「でも、あの人たちは遠くに行ったりはしないことにしたんですよ」ポリーおば様はあわてて質問をかわしました。
「二人は、あそこで一緒にずっと暮らすことにしたんですって」
「ああ、わたし、うれしいわ!だったら、また通りかかったときに、あの人たちはまだ・・・ああ、なんてことなの!」そこで、悲しげに少女はいうのをやめました。
「ポリーおば様、どうしてわたしは、もう歩けないんだってことを忘れてしまうのかしら?そして、もう二度とペンデルトンさん宅に行くこともないってことも」
「さあ、さあ、そんなことはいわないで」ポリーはのどをつまらせました。
「たぶん、いつか車か馬車で行けますよ。でも、聞きなさい。ペイソン夫人がいったことで、まだいっていないことがありました。夫人はあなたにこう伝えて欲しいって。二人は一緒にいることにしました。あなたが喜んでくれるだろうから、ゲームを続けていきますって」
ポリアンナは涙で濡れた目で微笑みました。
「そうなの?そうしてくれるって?ほんとに?ああ、なんてうれしいんでしょう!」
「ええ、ペイソン夫人はあなたに喜んで欲しいっていっていましたよ。だから、夫人はあなたにいったんですよ。あなたを・・・喜ばせたいって、ポリアンナ
ポリアンナはすぐに振り向きました。
「あら、ポリーおば様、まるで・・・知っているみたいな話し方・・・もしかして、ゲームのことを知ってらっしゃるんですか、ポリーおば様?」
「ええ、わたしのいい子」ポリーは努めて明るい声で顛末を話そうとしました。
「ナンシーが話してくれたのよ。すてきなゲームだと思うわ。これからわたしも始めるわ・・・あなたと一緒にね」
「ああ、ポリーおば様・・・おば様も?なんてうれいしいんでしょう!おば様も始めてくださったらどんなにいいかって、ずっと思ってたんです」
ポリーは息が急につまるのを感じました。いつもの声を保つのはもっと難しくなりましたが、なんとかやりとげました。
「ええ、わたしのいい子。それから、他のみんなも一緒に。ああ、ポリアンナ、どうも街中のみんながあなたと一緒にゲームをしているみたいじゃない。牧師さんまでも!まだいっていませんでしたが、今朝、村に行く途中でフォード牧師に会いました。もしあなたに会えたら、最初にいうことは、あなたが教えてくれた800の喜びの句があるから、いつも喜ぶようにしていますですって。だから、わかるでしょう、わたしのいい子。あなたが、全部やったのよ。街中がゲームをやっていて、街中が幸せになっているの・・・それはある小さな女の子が、みんなに新しいゲームとその遊び方を教えたからなのよ」
ポリアンナは手をたたきました。
「ああ、わたしほんとにうれしいわ」少女は叫びました。それから、急に、顔が明るくなったのです。
「ああ、ポリーおば様、やっと喜べることが見つかったわ。とにかく、前は足があってよかったわ。そうじゃなかったら、こんなことは・・・できなかったんですもの!」