夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 III-1

そのこがいったいどこからきたのか、なかなかわからなかった。ちいさなおうじさまは、きいてくるばかりで、ぼくがきいてもちっともこたえてくれなかった。それでも、ふとしたとたんにいったことから、だんだんそのこのことがわかってきた。


たとえば、はじめてひこうきをみたとき、そのこはこういった。ところで、ひこうきのえはかかない。ぼくには、とてもふくざつすぎるから。
「これはなんていうもの?」
「ただのものじゃないよ。とべるんだ。ひこうきっていうんだ。ぼくのだよ」
ぼくは、とぶことができるといえて、いささかとくいだった。
そのこは、おどろきのこえをあげて、こういった。
「えっ!じゃ、そらからおっこちたの」
「そうだよ」ぼくはしずかにこたえた。
「それっておかしいね!」
ちいさなおうじさまは、かわいらしいわらいごえをたてた。それをきいていやなきがした。こんなにひどいじこにあったんだから、もっとまじめにきいてほしかった。


そのこはつづけていった。
「じゃあ、あなたもそらからきたんだ。どのほしからきたの?」
そのとき、そのこのことがなぞにつつまれてきた。わけがわからなくなって、こうたずねた。
「きみは、ほかのほしからきたのかい?」
そのこはこたえなかった。ひこうきをみつめながら、ゆっくりとうなずいた。
「たしかに、こんなのりものじゃあ、そんなとおくからはこれないよね」


そして、ながいあいだなにかをかんがえていた。
それからポケットからヒツジのえをだして、そのたからものをじっとみつめていた。
このなぞにつつまれた「ほかのほし」について、ぼくがどんなに、しりたくてしりたくてたまらなくなったかがわかるとおもう。だから、もっときいてみた。
「ねえきみ、きみはいったいどこからきたの?きみがいう、『ぼくのすんでいるところ』はどんなところなんだい?いったい、そのヒツジをどこにつれていこうとしてるの」


しばらくだまってから、そのこはいった。
「ハコをくれてよかったよ、よるになるとヒツジのいえになるねぇ」
「そうだよ。かわいがってくれるなら、ひるまにヒツジをつないでおくヒモもあげるよ。それからながいくいもね」
こういってみても、ちいさなおうじさまをおどろかしただけだった。
「ヒツジをつなぐだって!なんてへんてこなかんがえなの!」
「でも、つないでおかなかったら、どこかににげだして、まいごになってしまうじゃないか」
ちいさなともだちはおかしそうにふきだした。
「どこへいけるとおもうの」
「どこへだってさ。まっすぐにいってしまうよ」
するとちいさなおうじさまは、まじめになってこういった。
「それはだいじょうぶ。ぼくのすんでいるところはなんだってとてもちいさいんだから」


そして、いくぶんかなしげなようすで、こうつけくわえた。
「いくら、まっすぐいったって、そんなにとおくにいけないよ」