夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子さま ブログで読める新訳 IX-1


そのほしからたびだつために、ちいさなおうじさまは、わたりどりのむれをつかったんだとおもう。あるあさ、たびだちにそなえて、したくをかんぺきにととのえた。まず、かざんをねんいりにそうじした。もえているかざんは、ふたつあって、あさごはんをあたためるにはちょうどよかった。ひのきえたかざんも、ひとつあった。でも、「なにがおこるかわからないから!」そのかざんもそうじした。ていれがうまくいっていれば、かざんはばくはつしたりしないでゆっくりと、おんなじつよさでもえつづける。かざんがばくはつするといっても、えんとつからひがでるようなものなんだけど。


でも、このちきゅうでは、ぼくたちはちいさすぎて、かざんのそうじができない。だから、ばくはつしたりしてもんだいをおこすんだ。


おうじさまは、ちょっとさみしげにバオバブのめをひきぬいた。もうそこには、かえらないつもりだった。でも、いつもやってるしごとのひとつひとつが、とてもたいせつにおもえてきた。さいごに、はなにみずをやって、ガラスのうつわをかぶせようとしたとき、もうすこしでなみだがでそうになった。


「さようなら」
おうじさまはささやいた。
はなはこたえなかった。
「さようなら」
おうじさまはまたいった。
はなは、せきをした。でも、カゼをひいていたからじゃなかった。


「わたしってばかね」
やっと、はながいった。「ゆるしてくださるかしら。おしあわせになってね」
はながおこらなかったのでおどろいた。ふしぎにおもってガラスのうつわをかかえたまま、そこにたちすくんでいた。そのしおらしさのいみが、わからなかった。


はなはいった。
「もちろん、あなたがだいすきよ。あなたがそれにきづかなかったのは、わたしのせいね。でもそんなことはどうだっていいの。あなたも、わたしとおなじくらい、おばかさんだったんですもの。げんきをおだしなさい・・・ガラスのうつわからだしてちょうだい。もういらないの」
「でも、かぜがふいたら・・・」
「わたしのカゼはそれほどわるくはないわ・・・よるのつめたいくうきだってからだにいいくらいだわ。はななんですもの」
「でも、なにかきたら・・・」
「そうね、すこしくらい、けむしがきたってへいきよ。ちょうちょとおともだちになりたかったらね。とってもきれいだそうじゃない。それに、ちょうちょやけむしのほかに、だれがたずねてきてくださるっていうの?あなたはとおくにいってしまうし・・・それにおおきなどうぶつだってこわがらないわ。つめがあるんですもの」
むじゃきに、4ほんのトゲをみせて、つづけた。
「どうか、きになさらないで。いくっておきめになったんでしょう。いってらっしゃい!」


ないているところをみられたくなかったんだ。ほこりたかい、はなだった・・・