夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

ギャッツビー英文の難しさと、どうやって意味をとるか

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それにしても、グーグル検索で「グレートギャッツビー
」と調べると、次のもっともよく検索されている言葉は「つまらない」って言うのはアゴにデッドボールをくらったようなショックでしたね😭😭😭

 

でも、違う見方をすると、ここで小説ギャッツビーについて一人漫才を続けていれば、この分野(どういう分野よ?)で一位になる可能性もあるじゃないですか?(と自分を慰める)

 

パブーさんから、ギャッツビー翻訳本を発表いたしました。無料公開しておりますので、もしよろしければどうぞ。

https://puboo.jp/book/130895

 

 

翻訳で難しかった点

 

 この本の訳は自分のブログに連載してきたものである。ブログに来てくださった方は、英語に興味がある人が多かったので、翻訳に関して気づいたことを少し述べたい。

 

 作者のF・スコット・フィッツジェラルドの文章は詩的で想像力をフルに働かせたリズムある美しいものだ。でも、一文がものすごく長い。そして訳すのが難しい。

 

Most of the confidences were unsought--frequently I have feigned sleep, preoccupation, or a hostile levity when I realized by some unmistakable sign that an intimate revelation was quivering on the horizon--for the intimate revelations of young men or at least the terms in which they express them are usually plagiaristic and marred by obvious suppressions. (第一章から)

 

soraike123.hatenablog.com

 

 これが一文である。もしかしてひいたとか?でもね、アメリカでは多くの高校で、グレート・ギャッツビーが必須図書らしい。これが読めないと高校生にも太刀打ちできないぞ。

 

 それでも、最初はどう訳すか戸惑う。英語は文頭から読むものなので、迷わず文節をぶつ切りにしながら最初から訳していき、後で繋げる際、必要なら文節を入れ替えればいい。とにかく大事なこと文頭から理解することである。

 

Most of the confidences were unsought

ほとんどの打ち明け話は、求められていなかった

 

frequently I have feigned sleep, preoccupation, or a hostile levity 

私は、頻繁に眠いふりや、上の空や、敵対的な軽はずみを装ったことがある。

 

それはどういう時かというと、

when I realized by some unmistakable sign that an intimate revelation was quivering on the horizon

私は何か明らかな兆しによって、親密な啓示が地平線上で震えていたことに気付いた時

 

それはどうしてかというと、

for the intimate revelations of young men or at least the terms in which they express them are usually plagiaristic and marred by obvious suppressions.

若い男性の親密な打ち明け話や、少なくともそれを表現する言葉は、通常、盗作的であり、明らかな抑圧によって汚されている。

 

ここでは、confidencesとrevelationsは同じ意味である。

 

 これだけ読むと、意味がわからないので背景を少し説明しておこう。ニックはお人好しで人の心を読むのがうまかったため、いろんな男友達が寄ってくるようになり、心ない仲間から策士とあだ名されバカにされた。だけどニックは自分から友達作りをしようとか、打ち明け話を聞こうとか思ったことは一度もなく、相手が勝手に寄ってくるだけだということを述べている。

 

 自分はあまり長い文章は好きではないので、切りながらこの文節を形にしていく。ここはお好みで。

 

 訳例

 ほとんどの打ち明け話は、オレが望んだことじゃなかった。(ここを受動形で訳すと読みにくいので変えた)

 何か明らかな兆しによって、友達になりたいというサインが地平線上でチラチラしているのが見えた時には、しょっちゅう眠いふりをしてみたり、上の空になったり、敵意を示すような悪ふざけをしてみたりした。

 若い男の親密な打ち明け話や、少なくともそれを表現する言葉は、通常、借り物だし、明らかな抑圧によって汚されているからだ。

 

 

 この作者はbeforeを副詞として使うのが好きである。自分にはとても訳しにくかった。

 

We drew in deep breaths of it as we walked back from dinner through the cold vestibules, unutterably aware of our identity with this country for one strange hour before we melted indistinguishably into it again. (第九章から)

soraike123.hatenablog.com

 

 

 これも覚悟を決めて文頭から読んでいくしかない。

この文章は、語り手のニックが、クリスマス休暇に電車に乗って故郷の雪深い中西部に帰省している場面の描写で、一番最初のit は雪国に近づいた折に空気中に現れる痛いほどの寒さのことである。

 

 

We drew in deep breaths of it as we walked back from dinner through the cold vestibules,

夕食から帰ってきて寒い前庭(ここでは電車の食堂車につながるデッキ)を通りながら、私たちはそれを深呼吸した。

 

unutterably aware of our identity with this country for one strange hour 

此の国と奇妙な一時間を共にして、言葉にしなくても自分たちのアイデンティティに気づく

 

before we melted indistinguishably into it again.

私たちがまたそこに見分けがつかないほど溶け込む前に

 

 

時系列を見ると以下の流れになる。

 

食堂車から帰ってくる→デッキを通りながら深呼吸する→自分たちのアイデンティティ(この雪国出身者であること)に気づく→そして雪国に溶け込む

 

 要するに、夕食から帰ってくること、深呼吸すること、アイデンティティに気づくこと全てが、we melted indistinguishably into it again が起こる前に起こっているという意味である。

 

逆にいうと、we melted indistinguishably into it again がその前の全部の行為の結果として、最後に起こると言っているのである。

 

訳例

 夕食を終えて、食堂車から通じる寒いデッキを通りながら寒さでかみつくような空気を深呼吸すると、不思議な一時間を過ごすうちに、口では言わないが、自分がこの国の人間であるということをはっきりと意識する。そして雪国である故郷に、自分でもわからなくなるほどに溶け込んでいくのだ。

 

 英文の読解も練習あるのみで、さすがに九章全部を訳し終えた頃には翻訳のスピードが飛躍的に上がった。

 

 ちなみに、自分は語彙力を伸ばすのが非常に苦手であるが、かなりの英文を読みこなすにつれて、最初はうろ覚えだった意味が頭に定着するようになってきた。この単語は見たことがあると思えるのが第一ステップである。