夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

星の王子様 「大切なものは目に見えない」 心の大切さ

目を閉じてみて欲しい。その暗闇の中に、何がみえるだろうか?

何も見えないって?そこに星の王子さまがすむB-612があるんだ。
「心」っていう望遠鏡を使わないと見えないんだけど。
(http://d.hatena.ne.jp/Soraike123/20121207/1354896338)

「大人」はいうだろう。そんな訳ないって。でも、王子様の小惑星、B-612は「想像の産物」であり、「前頭葉右側の中枢から5ミリのところにある神経に内蔵されています」といえば、みんな納得するだろう。いまのはちょっとでたらめだけど、これがこの物語「星の王子様」の中心テーマとなっている。つまり、もっと大事なことは、「心があるかないか」「想像力は脳のどこにあるのか」という化学的な分析ではなく、それを使ってどう「幸せ」になるか、また自分の世界を豊かにできるかってことだと思う。

この話でいう「大人」とは「二十歳以上の人」ではなく、「心」っていう望遠鏡をなくしてしまった人たちのことをさす。

そして、「王子様」は作者の分身である語り手のパイロットに「心」の大切さを教えてくれる人、つまり、子供時代の自分の姿だと思う。

さて、物語では、王子様は自分の星(いわゆるB-612)で、バラに出会って、彼女の見栄やおしばいに疲れてしまい、星を離れることにする。そして、真実、つまり人生でほんとうに大切なものをを教えてくれる「友達」を探しにでかける。

そこで会った人々は、みんな「大人」だった。つまり、「心」をなくしている人たちだった。
人をコントロールしなければ気がすまない王様、おせじをいうことを要求する自惚れや、飲むことが恥ずかしいのにやめられない酔っ払い、利益追求しか考えていない実業家、命令に盲従し自分で考えない灯火夫、自分の外の世界を知らずデータの世界のみで生きている地理学者に会う。
共通しているのは、みな、友人がおらず、幸せでないということだった。


ひとり、「灯火夫だけべつ」としているのは、灯火夫の仕事のみが、人のためという視点をもっていることだった。「人のために行動をとること」、これが、自分の世界をもっと豊かにしてくれる。

地球では、王子様はパイロットに会うまでに、ヘビ、砂漠の花、バラ、きつね、線路交換手、薬売りに会っている。

ヘビは聖書で人間を裏切って永久に人々から嫌われる存在として描かれている。
この物語でも、そのイメージがあるのではないか。

砂漠の花は美しくはないが、大地に根を下ろしており、自分という世界をきっちり保っていた。
「自分を見失っている」人間と対比されているのだろう。

花園の5千本もあるバラは、美しいだけで、中身のない存在として描かれる。「きずながあるから」自分の星に咲いたバラのほうが、たとえわがままで、自己中心的でも大事な存在であると。

きつねは、イソップなどでは狡猾な存在として描かれるのが常であるのに、なぜ、この物語で王子様を導く役割を演じたのかわからない。第二次世界大戦中、ナチス・ドイツに侵略されたフランスは、人間に追い回され逃げ惑う「きつね」に見えたのだろうか?(http://d.hatena.ne.jp/Soraike123/20121213/1355398930)

出番が短い線路交換手であるが、この人は仕事に追われる忙しい生活を送りながら、ちゃんと王子様の話がわかっている。そして「子供は幸せだ」とつぶやく。ここでいう「子供」とは、ぼろきれ人形の中にも「魂」をみぬく「心」がある人ってこと。また、ぼろきれ人形に魂をいれるには、ぼろきれ人形を長らく大事にして心の「きずな」を築かなくてはいけない。王子様のいうことが、わかった線路交換手は、作者の心の投影だろう。(http://d.hatena.ne.jp/Soraike123/20121213/1355399311)

最後の薬売りであるが、水を飲まなくてもすむクスリを売っている。作者自身も砂漠で不時着した経験があり、歩いて無事生還したのだが、水を求めてさまよう中で、このクスリのことを夢見ていたのかもしれない。しかし、王子様は「砂漠は井戸をかくしているから、美しい」といい、クスリより、自分の足で探すほうを選ぶ。ここでいう「水」とは、のどの渇きをいやしてくれるものではなく、「砂漠をさまよう」という命がけの努力に対する報酬のことかもしれない。(http://d.hatena.ne.jp/Soraike123/20121213/1355399355)

心を豊かにするためには、そしてうるわしい友情を築くためには、まず自分が行動をおこさなければならない。友達のために費やす時間と労力がこそが、自分の生活を豊かにしてくれるのだ。