夕焼け色の記憶

翻訳した作品を中心に、オーストラリアから見て思ったことなどをつづっていきたいと思います。シドニー在住

グレート・ギャッツビー 第四章-10 ニューヨーク🗽 ニューヨーク🗽

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グレート・ギャッツビー 第四章-10

「わかったよ、君」

 ギャッツビーはそう言ってスピードを落とした。そして財布から白いカードを取り出し、男の目の前でひらひらさせた。

「あなたでしたか」と警官は同意し、帽子を傾けた。

「今度はお邪魔しません、ギャッツビーさん、失礼しました!」

「今のは何ですか?」

 オレは尋ねた。 

「オックスフォードの写真?」

「警察部長の頼みで一回仕事をしたことがあってね、毎年クリスマスカードを送ってもらってるんです」

 大きな橋の向こうから太陽の光が大梁越しに注がれ、走り交う車がきらめいていた。

 

 川の向こうには、札束の汚れを見ないフリをして願いをこめてこしらえた、白くそびえる角砂糖のような街がそびえ立っていた。

 

 クイーンズボロ橋から見渡すニューヨークは、いつも初めて目にするような感動がある。太古から交わされてきたあらゆる神秘、あらゆる美しさを秘めているのだ。

 

 死者を乗せて、花で埋め尽くされた霊柩車が、オレたちの前を通り過ぎ、それに続いてブラインドのついた2台の馬車、そして仲間を乗せたもう少し陽気な馬車が続いた。その連中は、東南ヨーロッパ人特有の悲しげな目と薄い上唇でオレたちを眺めていたんだけど、気の重い休日にギャッツビーの立派な車を見れば少しは気が晴れるかと思えばうれしかった。ブラックウェル島を渡るとき、白人の運転手の運転するリムジンが、男2人、女1人、計3人のシャれた服を着た黒人を乗せてオレたちの前を通り過ぎた。ビッグライバルの出現に彼らの黄色い目玉が飛び出しそうだったので、オレは声をたてて笑ってしまった。

「この橋を渡ってしまえば、もう何が起きてもおかしくない...なんだってありうる」

 そんな気がしてた。だからギャッツビーだっているわけだし。なんの不思議もない。

 

 

 

Chapter 4-10

"All right, old sport," called Gatsby. We slowed down. Taking a white card from his wallet he waved it before the man's eyes.

"Right you are," agreed the policeman, tipping his cap. "Know you next time, Mr. Gatsby. Excuse me!"

"What was that?" I inquired. "The picture of Oxford?"

"I was able to do the commissioner a favor once, and he sends me a Christmas card every year."

 

Over the great bridge, with the sunlight through the girders making a constant flicker upon the moving cars, with the city rising up across the river in white heaps and sugar lumps all built with a wish out of non-olfactory money.

 

 The city seen from the Queensboro Bridge is always the city seen for the first time, in its first wild promise of all the mystery and the beauty in the world.

 

A dead man passed us in a hearse heaped with blooms, followed by two carriages with drawn blinds and by more cheerful carriages for friends. The friends looked out at us with the tragic eyes and short upper lips of south-eastern Europe, and I was glad that the sight of Gatsby's splendid car was included in their somber holiday. As we crossed Blackwell's Island a limousine passed us, driven by a white chauffeur, in which sat three modish Negroes, two bucks and a girl. I laughed aloud as the yolks of their eyeballs rolled toward us in haughty rivalry.

"Anything can happen now that we've slid over this bridge," I thought; "anything at all. . . ."

Even Gatsby could happen, without any particular wonder.

 

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ああ、難しかった。。。

特にこの部分。

Over the great bridge, with the sunlight through the girders making a constant flicker upon the moving cars, with the city rising up across the river in white heaps and sugar lumps all built with a wish out of non-olfactory money.

 

 The city seen from the Queensboro Bridge is always the city seen for the first time, in its first wild promise of all the mystery and the beauty in the world.

 

 慎重な訳が必要だったので、改行しました。

 最初の段落の問題点は、olfactory money。匂いのない金??? お金に対して、どんな考えを持っているかを問われるところ。

 

野崎孝先生 河むこうには、街の建物が、汚れに染まぬ金の願いを託して建てられたもののごとく、真っ白い角砂糖をうず高く積み上げたようにそそり立っていた。

 

小川高義先生 川の向こうには大都会が、白く、高く、角砂糖のように立ち上がる。うさんくさい金をうさんくさいとも思わず、金で願いごとをかなえた街

 

大貫三郎先生 イースト・リヴァーの向こうには、白い積み重なりか砂糖の塊のように、市が聳え立っている。願わくば、それは全て臭くない金銭で建てられたものであってほしい。

 

橋本福夫先生 河の対岸には、ニューヨーク市が、穢れていない金銭で希望をこめて建設された建物の白い色や砂糖色のかたまりになって、もり上がっているのがみえる。

 

built with a  wish out of だから、何らかの願いを込めて建てられた街という意味だと自分は思う。その街が、願いから生まれてきたというか。で、匂いのない金とは、これいかに? 金はほんとは汚いんだけど、キレイだと無理やり思うことにしよう。。。という意味にとっておく。福本先生に近いか。この本全体をみれば、小川先生の訳も大いにうなずけるんだけど。これがこの本のテーマの一つだと思うから。

 

次。

in its first wild promise of all the mystery and the beauty in the world.

これは何だ?全世界の全ての神秘と美からの最初の野生的な約束の中にある??? さっぱり言葉にできない。

 

でもね。気持ちはわかる。シドニー都心を車で抜けてハーバーブリッジにさしかかると、頭上にはいきなり広大な青空が広がり、左右には真っ青な海が広がり、砂糖菓子のような美しいオペラハウスが見えて、これぞシドニーだと来るたびに感動する。この感動を言ってるんだ。

 

 

野崎孝先生の訳が素晴らしい。

クイーンズボロ橋から眺めたニューヨークは、何度見ても、はじめて見る街という印象を与える。世界中のあらゆる神秘、あらゆる美が、この中にあるという幻想を、いつも新しく見る者の胸に湧き起こすのだ。

 

 野崎孝先生の訳はいつも原文にとても近いのに、幻想ってどこから来たのと思ったらpromise を幻想にしたんだ。可能性、つまりまだ起こっていないことって意味もあるから。さすが。

 

 とりあえずニューヨークの美しさはすべてを包摂しているという訳にしておく。変更したらご報告します。